先天的に心膜腔と腹膜腔が連絡することにより腹腔内の臓器が心嚢内に逸脱する疾患で、犬より猫に多い病気です。呼吸の異常や活動性の低下、消化器症状などの症状を主訴に来院され診断されるケースもあれば、定期健診や避妊・去勢手術の術前検査のタイミングで偶発的に発見されることもあります。
診断にはレントゲン検査・超音波検査などの画像検査が有効で、補助的に血液検査も行います。他の先天性疾患を併発していることもあるので、全身のスクリーニング検査が必要になります。
治療は心膜腔内の臓器を腹腔内に戻す外科手術が有効です。開腹手術のみで整復できることが多いですが、腹腔内臓器が心膜腔に癒着している場合には胸骨切開による開胸手術が必要になります。また術後、循環動態が変わることによる再灌流障害や気胸などの合併症に注意が必要です。
比較的リスクの高い手術になるので、手術を行うかどうかはご家族とのご相談になります。無症状で過ごす子もいるため経過観察することも多いですが、ヘルニア孔に臓器が絞扼され組織障害が起こることによる急変のリスクを常に抱えていることが懸念されます。
本症例は8か月齢のMIX猫で、他院で心膜腹膜横隔膜ヘルニアと診断され、セカンドオピニオンを主訴に来院されました。
一般状態は良好でしたが、レントゲン検査で心拡大、超音波検査で心膜腔内に肝臓・胆嚢の迷入を認めました。逸脱臓器が多く、今後呼吸器や循環器症状の発現が懸念されたためオーナー様の希望もあり、開腹手術で整復することになりました。
(レントゲン写真準備中です)
麻酔導入時のSpO2(血中酸素飽和度)は自発呼吸では82-90%(正常:98~100%)ほどであり、本疾患による呼吸器への影響が考えられました。そのため手術中は人工呼吸器に切り替え、十分な酸素吸入と換気を行い適切なSpO2に管理し実施しました。
開腹手術で横隔膜のヘルニア孔(矢頭)を確認後、心膜腔内に迷入した肝臓と胆嚢を整復し、横隔膜の再建を行いました。その後、自発呼吸でSpO2が100%となったことを確認し閉腹しました。
術中写真・術後レントゲン写真準備中です)
術後、合併症である気胸を発症しましたが、適切な処置により治癒し、大気圧下でもSpO2が100%であることを確認できたため退院となりました。
その後ヘルニアの再発は認められず経過は良好です。
この疾患は先天性疾患のため本症例のように若齢で発症するケースが多いです。避妊去勢手術前に血液検査に加えてレントゲン検査を行ったり、若いころから定期健診を行うことで急変リスクのある先天性疾患を早期に発見し治癒させることが可能です。
腹膜心膜横隔膜ヘルニアは術後の予後が良く、その後問題なく暮らせる子がほとんどです。手術を悩まれている方は一度ご相談ください。